屈辱の卒業式
俺はこの学校一の優秀な生徒だった。生徒会長として生徒からの信頼も厚く、すでに県内トップの進学校への推薦が決まっている。まさしく絵に描いたような完璧な優等生だった。
――いや、少なくともそう“見せかけて”いた。
裏ではやりたい放題だった。気に入らない奴は巧妙に陥れ、教師の弱みを握って成績を操作することなど朝飯前。俺はこの学校の頂点に君臨をしていたのだ。
それなのに――卒業式前日、あっけなくすべてが崩れ去った。
「明日の卒業式、お前は女子の制服で出ろ」
放課後、人気のない教室。担任の低い声が響く。意味が分からず俺は目を瞬かせた。
「……何を言ってるんですか?」
「お前のやってきたこと、全部証拠を揃えてある。成績の操作、不正行為……これを公表すれば、推薦は取り消し、進学は絶望的だ」
血の気が引いた。ふざけるな。そんなこと、俺が許すわけがない。
「……先生の浮気の写真、ネットに拡散しますよ?」
いつものように切り札を出す。結局は俺に逆らえるわけがない。だが、教師は鼻で笑った。
「勝手にすればいい、俺はもう離婚が決まったんだ。何をされても関係ない」
心臓が嫌な音を立てた。もはや、逃げ道はなかった。
それでも、女子の制服で卒業式に出る? そんなこと、できるわけがない。
「無理ですよ……そんなの……」
「選べ。悪事が暴かれすべてを失うか、それとも、大人しくスカートを穿いて卒業するか」
選択の余地など、なかった。
「それともうひとつ条件だ。誰に何を聞かれても、自分の意思で着ていると言え」
「……は?」
「事情を聞かれても、誰に強制されたとも言わず、全部『自分が好きで着ている』と答えろ」
思わず喉が詰まった。女子の制服を着るだけでも屈辱なのに、それを『自分の意思』として受け入れろと?
「……無理です」
「なら、推薦はなしだ」
教師は淡々とした口調で言い放った。俺は唇を噛んだ。ここで断れば、すべてが終わる。スカートを穿くことさえ耐えれば、未来は守られる。そう思うしかなかった。
「……わかりました」
俺は小さく、震える声で答えた。
―――翌朝、俺は鏡の前に立っていた。
セーラー服のリボンを結び、スカートの裾を指でつまむ。普段見慣れたはずの制服が、異質に思えた。脚に触れるスカートの感触が生々しく、まとわりつく。
「……最悪だ」
だが、最悪はまだ始まったばかりだった。
教室のドアを開ける。卒業式当日の浮ついた室内に一瞬の静寂が訪れる。
「えっ……?」
「なになに……?」
驚愕と嘲笑の入り混じった視線が俺に突き刺さる。こみ上げる吐き気をこらえながら、俺は震える唇を噛んだ。
教師との約束――誰に何を聞かれても、”自分の意思で着ている”と言わなければならない。
「お前、それ……」
クラスメイトが戸惑いがちに口を開く。俺は、喉を絞るように答えた。
「……俺が、着たかったから」
言った瞬間、笑い声が弾けた。クラス全体がざわめき、一部の奴らは腹を抱えて笑っている。
「マジで?」
「ヤバすぎるだろ!」
「えー、そういう趣味だったんだ!」
足がすくむ。でも、逃げることは許されない、教壇には俺を追い詰めた張本人が腕を組みながら満足げにこちらを見ている。
―――ざわめきの中、卒業式が行われる体育館に移動する。まぎれていれば意外にバレないものではあったが……。
卒業証書を受け取るために壇上に上がる。スカートが揺れ、視線が集まる。
「あれって……?」
「生徒会長がなんで!?」
「憧れていたの…ショック!」

吐きそうだった。脚を隠したくて、肩をすぼめたくて、今すぐどこかに消えてしまいたかった。
笑われて、見られて、指をさされて。羞恥の渦の中で、俺の中学校生活が終わろうとしていた。
特別生徒としての再教育
進学できただけでも、奇跡だと思うべきなのかもしれない。
中学の卒業式、壇上にセーラー服姿で立たされた俺の写真は、あっという間にネットで広まり、近所のコンビニで知らない人にコソコソ笑われた日もある。
それでも、俺は春から県内屈指の進学校に通えることになった。
しかし、とんでもない事実が発覚する。どうやら中学の教師が“善意”と称して、高校に俺のことを説明していたらしい。
『性自認は女性。ただ、周囲のからかいや偏見が怖くて、それを否定してしまう子なんです』
教師の言葉は、俺の意思とは真逆のベクトルで、真剣に、丁寧に、高校へ届いていた。
入学式の朝、指定された制服は女子用だった。
チェックのプリーツスカートに、白のブラウスとピンクブレザー。着たくないと、担任にどれだけ否定しても
「話は聞いているから。大丈夫」
と、受け流される。

【特別生徒】
そう呼ばれる立場になった俺は、男子とも女子とも違う枠で、高校生活を始めることになった。
しかも、俺が特別生徒と分かる様に、普通の女子生徒は濃紺のブレザーなのに、自分はピンク色のブレザ―を着させられる。
入学してからの数ヶ月、俺は一人用の寮室で暮らした。
室内には小さな監視カメラが天井の角に仕込まれていて、俺がスカートを脱がないか、ブラを外さないか、全部見られている。
朝、起きたらまずは念入りなスキンケア。
そして鏡の前でお辞儀の練習。スカートの広がり具合を確認して、ホルモン剤入りのサプリを飲む。
形ばかりの“女の子”の生活に、俺の中身はずっと無言のままだった。
眉を整え、自然にスカートを整える指先。
声も少しだけ高くなってきた。
廊下ですれ違った先輩が、小さな声で「かわいい」と囁く。
恥ずかしくてたまらない。
春の光に包まれて咲く桜の下、俺はもう、「男」としての自分をうまく思い出せなくなっていた。
ポニーテールが揺れる一日
体育祭の朝。
鏡に映った自分を、俺はまっすぐ見つめることができなかった。
ポニーテールなんて初めてだった。
髪を結われると、耳の裏が妙にすうすうして、まるでそこだけ他人の身体になったみたいだった。
それでも何も言えずに、俺はされるがまま、髪を高く結ばれ、最後に黒いゴムで留められた。
白の体操服。そして、紺のブルマ。
太ももにぴたりと張りつく感触。
少しでも動けば、下着のラインが透けて見える気がして、まともに脚を動かせなかった。
「特別生徒だから、女子の体操服で参加できるわ。安心してね」
何度もそう言われてきた。
それは命令で、何度否定をしても「大丈夫だから」と受け流されてしまう。
グラウンドに出た瞬間、空気が変わった。
自分に注がれる視線。
男子たちは明らかに俺の脚を見ていたし、女子たちは小さく笑い合っていた。
誰も何も言ってこないのが、逆に怖かった。
俺は男子だ。
本当は、普通に短パンで走りたかった。
誰の視線も気にせず、空気を裂いて走りたかった。
でも、今の俺は……。
ブルマ姿で、太ももを晒して、髪を揺らして、グラウンドの真ん中に立たされている。
「見ないで…」心の中で何度も呟いた。
視線が刺さる。笑いが聞こえる気がする。
あいつらは、俺をどう見ているんだ。
でも、逃げることはできなかった。
もう戻れない。
この姿で学校に通って、この姿で寮に暮らして。
そうやって俺は、女の“ふり”をし続ける日々に慣れてしまっていた。
「位置について」
アナウンスが響く。
俺はスタートラインに立つ。
しゃがみ込むと、ブルマの裾が更に上がる。
太ももの奥まで晒してるようで、全身が火照る。
見られてる。
また、見られてる。
「よーい……ドン!」
走り出した瞬間、風が顔をなでた。
ポニーテールが揺れる音が、耳元でぱちぱちと弾けた。
脚が動くたびにブルマが擦れて、布越しの感触が妙に意識に残る。
全力で走っているはずなのに、心の中は羞恥でいっぱいだった。
顔が熱い。太ももが熱い。
でも、それ以上に――なぜか、胸が高鳴っていた。
声援が聞こえる。
「がんばれー!」
俺の名前。
女の名前で、呼ばれている。
いやだ。うれしい。いやだ。うれしい。
どっちなんだ。
自分が分からない。
でも、テープを切った瞬間だけは、確かに何かが弾けた。
女子たちが駆け寄ってきて、俺の手を握る。
笑いながら、「すごい!」と言ってくれる。
俺は、その中にいた。
恥ずかしくて、情けなくて、それでも――少しだけ、うれしかった。
知らなかった。
こんな気持ちになるなんて。
自分の脚で走っただけなのに、ポニーテールを揺らしただけなのに。
「女の子として見られること」が、
こんなにも胸をざわつかせるなんて、俺は知らなかった。
羞恥はまだ、消えていない。
けれどその奥に、確かに何か――光るものが、あった。

紅茶の香りと“私”
体育祭の日から、胸の奥がずっとザワザワしていた。
ポニーテールに結った髪をなびかせながら、ブルマ姿で走ったトラック。拍手と歓声。先生やクラスメイト、そして見知らぬ生徒たちが俺を見て、口々に「可愛い」と言った。
「え、あの子男の子だったの!?」
「信じらんない、超キレイ……」
言われて嫌じゃなかった。そのことが、一番の問題だった。
それから数日後、廊下で女子の先輩に呼び止められた。
「ねぇ、今度の日曜、女子寮でお茶会するんだけど…良かったら来ない?」
唐突すぎて意味がわからなかった。けど、笑っていた先輩の目があまりに優しくて、咄嗟に「俺でいいんですか」って聞いてしまった。すると、首をかしげて、
「特別生徒でしょ?もちろん、あなたは女の子としておいでよ」
と、言われた。
念のため先生に相談すると、あっさり許可が出た。というか、むしろ当然という顔をしていた。
『あなたは今、女子生徒として学校に受け入れられているんだから、他の女子と同じように、過ごせばいいのよ』
日曜、女子寮の玄関で出迎えてくれたのは、二人の先輩。俺の顔を見るなり、
「お茶会に似合いそうなお洋服、ちゃんと用意してあるから」
と手を引かれ、奥の部屋へ連れていかれた。
白と薄ピンクのフリルのロリィタファッション。ふわっと広がるスカート、リボンのついたヘアバンドと、膝下まで伸びる白タイツ。鏡の中には、まさしく女の子の格好をした“俺”がいた。
「ほんっとに、可愛い〜〜!!」
部屋に入ると、紅茶の香りと共に、一斉に注がれる視線。
スマホを構えられ、褒められ、囲まれて、着席するまでにもう十回以上「可愛い」と言われていた。
「ねえ、ほんとに肌きれいだね。スキンケア何使ってるの?」
「フリル似合いすぎ……肩が華奢だから余計に映えるんだよ」
「えっ、そのワンピース、私が着てもそこまで可愛くならないと思う」
次から次へと、言葉の花束が降り注ぐ。
俺の中の「男」が小さくなっていく一方で、胸の奥にふくらむ“何か”がある。
最初はただ恥ずかしかった。
スカートのふわっとした感覚、タイツ越しに感じる椅子の冷たさ、レースの袖が腕を撫でるたび、自分が「男」であることを思い出しては心の奥で赤くなっていた。
「髪の毛、すっごく良い匂いするね。何つけてるの?」
「リボンの位置、ぴったり。ほら、前髪がきれいに流れてるからバランスいいんだよ」
ああ、こんなふうに見られてるんだ、今の“俺”。
……いや、違う。
今の「私」なのかもしれない。

ティーカップを口元に運ぶ手首の角度、笑ったときに手を口に添える仕草、うなずくと揺れるリボン。
みんなが喜んでくれる「私」が、どんどん心に根を張っていく。
「俺」じゃない方が、自然なんじゃないかって。
隣の先輩がそっとささやく。
「やっぱり、言葉遣いも女の子らしくした方が、もっと素敵になると思うな」
一瞬、心がざわっとした。
けど、その言葉は責めじゃなくて、期待だった。
「女の子でいていいんだよ」っていう、優しい許可のような。
「……うん。私、もっと女の子らしくなれるかな…?」
そう口にした瞬間、紅茶の香りがぐっと甘くなった気がした。
私の中に、生まれたての“女の子”がいる。
最初は小さな芽だったけど、今はもう、手を広げてスカートを揺らして、楽しそうに笑っている。
窓の外で風が吹いて、レースのカーテンがふわりと揺れた。
この気持ちは、もう後戻りできない。
それでも、私の顔は……自然と、笑っていた。
FANBOXでは週3回、新作をお届けしています
イラスト挿絵付きの連載作品を、週3回のペースで更新中です。
皆さまのご支援が大きな励みとなり、創作を続ける力になります。
ぜひFANBOXでの応援をよろしくお願いいたします!
Pixivでも作品を公開しています
文字コラ画像や、FANBOX投稿作品の冒頭部分を公開中です。
【催眠×女装】“されちゃう”系フェチにうっとり…♡
意識も身体も、じわじわと“女の子”に塗り変えられていく…。
催眠×洗脳で、抗えない快感に落ちていく──
女装・洗脳好きさん必見のアダルト作品TOP10をまとめました♡



