事務所の怒りと降板の余波
カチャリ。
打ち合わせ室のドアを閉める音が、今の状況をより重く響かせた。
「……事前の許可は取ってなかったのか?」
凍りつく空気の中で、プロデューサーの声だけが平坦に刺さる。
その目は、怒りを隠そうともしていなかった。
「はい……すみません……完全に僕の確認ミスです……」
椅子に座る手が震える。汗がじっとりと背中を伝い、シャツがぴったりと肌に張りついて気持ち悪い。
ドッキリを仕掛けたのは今、大人気のお天気キャスターの女性。
ホテルで隠しカメラを撮っていた所、カバンから出てきたのは極太のバイブ。普段、清楚な“お天気お姉さん”が、ベッドの上で激しく一人遊びをするなんて誰も予想していなかった。
「その姿を隠し撮りされていた事に、彼女と彼女の事務所は大激怒。番組辞退だそうです」
「それも……僕が、ドッキリの件を事前に事務所に伝えてなかったせいで……」
「そうだよ!!」
ズン、と胸の奥が沈むように重くなった。
その女性タレントは、朝の情報番組の顔だった。番組の数字にも影響するのは必至だ。
「とにかく、代役を立てなきゃな」
「……代役、ですか?」
プロデューサーは、無言でこちらを指差した。
「お前がやれ」
「は……?」
「謝罪の意味を込めて、お前が女装して“お天気キャスター”をやれってことだよ。1ヶ月な」
「……女装って……僕が……?」
ぐらりと視界が歪んだ。
冗談だろ?そんなのあり得ない。
でも、誰も笑っていない。カメラマンも、ディレクターも、誰一人――
翌日、用意されたメイク室には、見慣れない衣装が並んでいた。
ピンクベージュのブラウス、淡いミントグリーンのスカート、薄いデニールの黒タイツ……
すべて、あの彼女が着ていた衣装を忠実に再現したものだった。
「これを着るんですか……?」
「当たり前でしょ、本人の代わりなんだから。化粧もバッチリ決めてもらうからね」
スタイリストに言われるがまま、僕は衣装を手に取った。
指先に触れたフリルは、驚くほど滑らかで、ふわふわしていて、まるで繭のようだった。
その繊維に触れた瞬間、体のどこかがきゅうっと縮こまる。
「……なんだろう、この感覚……」
言いようのない違和感。だけど、それと同時に、心の奥がざわざわしていた。
まるで、秘密を抱える背徳感。男であるはずの僕が、女物のブラウスを抱いて――ほんの少し、興奮している。
「ほら、脱いで」
言われるまま、シャツを脱ぎ、ズボンを下ろした。
「ほらっ、パンツもさっさと脱ぐ!」
僕に拒否権は無い。素直にパンツも下げる。肌に冷気がまとわりつき、体が露わになるのが恥ずかしい。
なのに、女の子の服を身に着けるという行為が、それを打ち消すほどの感覚を運んできた。
まずはレースのショーツを穿かされる。
キュッとタイトなそれは、男の象徴が小さく押し込まれる。
ぐい、と引き上げられた布地が股間に食い込み、異物感と微かな快感が混ざって喉が鳴る。
「ん……っ」
次にブラジャーを装着する。胸が包み込まれる、はじめての感覚に、体の中がゾワゾワする。
そして柔らかなブラウスを腕に通す。まるで泡のような軽さの布地が肌を撫で、肩先を滑る感触にぞくりと背筋が震えた。更にウエストを締めるようにスカートを巻かれる。
細身のヒールに足を通すと、少し背が伸びる。
脚のラインが強調され、ひざ下が妙に露出しているようで、スースーする。
視線が下に向けられることを想像するだけで、脇の下にじっとり汗が滲む。
「へぇ、可愛いじゃん。メイクもして完成度を上げていくよ」
スタイリストは笑いながら僕の肩を押して、椅子に座らせた。
「……はぁ、ドキドキする……」
思わず心の声が漏れる。
まず、パフで肌を撫でられる。
微細なパウダーがすべすべの感触で広がり、男の肌のざらつきを消していく。
ファンデーションのしっとりした重みが頬に乗るたび、何かを塗り隠されるような罪悪感と、秘密の高揚感が混ざり合っていく。
「肌、意外と綺麗ね。ベースは薄めで大丈夫」
指先でトントンと叩かれるたび、鼓動が皮膚越しに伝わってしまいそうだった。
次に、眉を整えられる。シュッと剃られ、少し細く整えられていく感覚に、男としての自分が少しずつ削ぎ落とされていく気がした。
「ふふ、こっちの方が優しい印象だね」
自然に描かれた平行眉が、どこか儚げで、女の子らしい輪郭をつくっていく。
アイシャドウをまぶたに乗せられると、ひんやりとした筆先が皮膚を撫でた。
そのたびにまぶたが震えて、目を閉じるのが怖い。見えない中で、女にされていくような――そんな気がした。
「はい、まつげ上げるよ〜」
ビューラーで睫毛を挟まれる瞬間、びくっと肩が跳ねた。
「緊張しすぎ〜、大丈夫だよ。女の子はみんなやってるんだから」
くすっと笑う声に、なんとも言えない羞恥を感じた。
僕は今、“女の子がみんなやってる”ことを、してもらっている。
まつ毛にマスカラが塗られていくたび、目元の輪郭がくっきりしていく。
最後にリップ。
「口、すぼめて。ちょっとぷるんとさせて」
言われるがままに唇を突き出す。
つけられたグロスは、粘度のある甘い液体。
チュルンとした感触と、ストロベリーのような香りが鼻をかすめた。
「……うわ、可愛い」
鏡に映った“僕”を見て、スタイリストが小さくつぶやいた。

――え、そんな、そんなこと……
「さ、見てごらん。完成だよ」
恐る恐る顔を上げた瞬間、息が詰まった。
鏡の中には、見知らぬ女の子がいた。
細い顎、少し潤んだ瞳、ピンクベージュのグロスでぷっくりした唇。
頬は自然な赤みを帯び、可愛らしい茶色のゆるふわウィッグからは、ふんわりスタイリング剤の香りが漂ってくる。
その髪が、ふと顔にかかった時――香りだけで胸の奥がキュンとなった。
「これ……僕……?」
まるで夢のような映像に、現実味がなかった。
だが、胸にあてがわれたブラの膨らみ、股間を包み込むショーツの締め付け、フリルの裾が太ももをかすめる感覚……
すべてが“僕”の身体の上で起きている。
「はぁ……なにこれ……変な気持ち……」
頭がぐらぐらする。
鏡の中の“僕”が、さっきから恥ずかしそうに目を逸らしている。
なのに、じっと見ていたくなる――自分自身なのに。
いや、自分じゃない“女の子”に、見られている気さえする。
女の顔になった“僕”が、男の僕を見透かして笑っているようで――
「……なんで……こんなに……ドキドキしてんだよ……」
ふいに、胸の奥がじんわり熱くなった。
心臓の鼓動が早くなるのと一緒に、股間がキュゥンと収縮する。
まるで体全体が、女の身体に変わっていくみたいな――そんな錯覚に襲われた。
「ダメだ……これ、変だって……こんな格好して……」
でも――
どうしてだろう。体のどこかが「気持ちいい」と言っている。
レースが肌にすれて、甘く疼く。ヒールの高さが、ふくらはぎをキュッと引き締めて、脚線美を感じさせる。
「自分の姿に……欲情してる……?」
そんなわけ、あるか。でも、否定できない。
このまま触れてしまったら……どんな気持ちになるんだろうって――
ガチャッ。
「準備できたー?もうすぐ本番入るよ!」
ドアの音に飛び跳ねた僕は、咄嗟にスカートの裾を押さえて立ち上がった。
頬がカッと熱くなる。こんな姿、誰にも見られたくなかったはずなのに……
今はなぜか、「見られたい」と少しだけ思ってしまった自分がいる。
「……は、はいっ……!」
廊下に出ると、スタッフたちの視線が一斉にこちらへ向く。
カツ、カツとヒールの音が、静寂を切り裂くように響く。
これから僕は、生放送で「お天気お姉さん」を演じる。
……本当に出来るのか?こんな格好で……全国放送で……?
全国に晒される、僕の女装姿
テレビ局の外に出て、自分の出番を待つ。ビル風が足元を抜け、膝上丈のミントグリーンのスカートをそっと揺らす。
「よし、そろそろ出番だぞ!」
インカムの奥からディレクターのカウントが響く。
「5…4…3…」
その声と同時に、正面の中継カメラの赤ランプが点り、全身がきゅっと強張った。
頬を撫でる風は心地いいはずなのに、化粧に覆われた肌では妙に生温く感じられた。
「それではお天気を教えて貰いましょうか!川上さーん!」
僕の名前が呼ばれる。
「はーい!皆さん、おはようございます!先週までお天気キャスターを務めておりました北川キャスターが体調を崩され、後任が決まるまでの1ヵ月は、私、“川上”が担当致します」

原稿通りの挨拶。
しかし自分の耳に届くのは、低く響く男の声ではなく、女性を演じた、どこか甘く柔らかい声だった。
モニターの中の僕は、口角をきゅっと上げた可憐なお天気お姉さん。
しがないADだった僕が、女装をして全国ネットでテレビに出演している。僕のミスが原因なのだが、なんとも言えない感情になる。
原稿を読み進めながら、意識は妙に体の細部へ向かってしまう。
体を揺らす度に、スカートがふわりと揺れ、冷たい空気がするりと滑り込み、太ももを撫でる。
黒タイツはふくらはぎにぴたりと沿い、ヒールのせいで自然と女性らしい曲線を描いている。
胸元のブラジャーはブラウスの下で微かに動き、その上下の揺れさえもカメラが拾っている気がした。
「それでは、素敵な一日をお過ごしください」
最後はこの番組のお天気キャスターの恒例となっているウィンク。演出だと分かっていても、頬の筋肉が熱を帯びる。
ランプが消えた瞬間、肩から力が抜けた。
ほんの数分の生放送なのに、下着の中までじっとりと熱を孕んでいる。
「お疲れ様! 初めてとは思えないくらい良かったよ」
「元々、前任の北川は視聴者受けはいいけど、スタッフに対する態度が悪かったんだよな。このままお前がやればいいんじゃないか?」
褒められて、胸の奥が小さく痺れるように高鳴る。
メイク室の鏡に映る自分は、まだ完全に女性のままだった。
頬は薄く紅潮し、鏡越しに目が合う。その視線さえ女性らしく見えてしまうことが恐ろしい。
スマホを取り出し、無意識に検索欄へ自分の名前を打ち込む。
予想通り、SNSには放送のスクショや切り抜き動画がもう溢れていた。
しかし、そこに並んだコメントは予想以上にざわついている。
『可愛いんだけど、声とか雰囲気がどこか男っぽい』
『あのキャスター、実は男なんじゃないか?』
『いやいや、絶対女でしょ。肌が綺麗すぎる』
『肩幅と指の形、男だわこれ』
『目元の優しさは女性にしか出せないって』
『どっちでもいいけど、好きになりそう』
タイムラインは、僕の性別を巡る論争で小さな炎上状態になっていた。
男性説と女性説が交互に投げ合われ、そのどれもが真剣に僕を分析している。
胸の奥がぞわりと震える――まるで裸を見られているみたいだ。
バレるわけにはいかないのに、その瀬戸際の緊張が甘く心地よい。
もう一度カメラの前に立ちたい――。
そんな考えが頭によぎる。
「……何考えてんだ」
呟きながらも、再び検索欄に自分の名前を打ち込んでいた。
次の放送で、この論争がさらに大きくなることを、どこかで期待してしまいながら――。
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