間違えられたスーツ
翌日に控えた入社式に向けて、仕立ててもらったスーツを受け取りに行った。
ちゃんと試着して確認してくださいね、と店員に言われ、俺は促されるまま試着室に入った。
隣の試着室からは、同じくらいの年頃の女の子の声が聞こえてくる。
サラサラと衣擦れの音、華やかな香水の匂い。
隣の子も新卒の子だろうか…。
そんな事を思いながら淡々とズボンに足を通し、ジャケットを羽織った。
ぴったりだ。違和感もない。これなら大丈夫だろう。
そう思って試着室を出ると、すぐに畳まれたスーツ一式が袋に入れられて手渡された。
この時、まさか店員がとんでもないミスをしているなんて、この時の俺は夢にも思わなかった。
そして翌朝。
緊張しながらスーツに袖を通し、ズボンを穿いた瞬間、妙な違和感に気づいた。
なんだこれ、ウエストが妙にキュッと締まる。
ジャケットも、肩幅がやたら狭いし、ボタンを留めると胸元がやけに浮く。
――まさか。
急いで鏡の前に立った俺は、血の気が引いた。
着ていたのは、レディースのスーツだった。
昨日、隣で試着していた女の子とスーツが入れ替わっていたのだ。
パニックになりながらも、仕立てた店に電話をかけようとする。だが、営業時間は朝10時から。
入社式は9時から。どう考えても間に合わない。
着替え直してる時間もない。どうする、どうする、どうすれば――!
俺は半ば錯乱しながら、24時間営業のディスカウントストアに飛び込んでいた。
早朝の店内、誰もいない衣料品コーナー。
必死に俺は、なぜかランジェリー売り場へと向かっていた。冷静に考えれば、別にそこに行く理由なんてないはずだ。
なのに、震える指で手に取ったのは、ピンク色のAカップのブラジャーと、それに合うショーツのセットだった。
なにやってんだ、俺。
だけど、頭がうまく回らない。
もし、レディーススーツを着るなら、下着もそれなりに揃えなきゃいけない気がして。
ふわふわレースの縁取りにまるで自分が女の子になったみたいな錯覚に、ゾクゾクと背筋が粟立った。

急い購入して、トイレかどこかでつけないと!
レディーススーツに、ブラジャーとショーツ。
こんな格好で、俺は入社式に向かわなきゃいけないなんて――
会社での視線
入社式の会場に到着した俺は、緊張と羞恥心で足がすくんでいた。
紺色のレディーススーツに身を包み、ピンクのブラジャーとショーツを身につけた自分の姿が、周囲の視線を集めているのではないかと不安で仕方がなかった。
スカートの裾が太ももに触れる感触や、ストッキングの滑らかな肌触りが、普段とは違う感覚を与えてくる。
足元のパンプスは、ヒールの高さがもたらす独特の緊張感を与えていた。
会場内では、新入社員たちが緊張した面持ちで座っていた。
俺もその中に混じり、周囲の視線を気にしながら席に着いた。
式が始まり、社長の挨拶や役員の紹介が続く中、俺は自分の姿が気になって仕方がなかった。
スカートの裾が椅子に触れる感触、ブラジャーの締め付け、ストッキングの滑らかな肌触り。
これらすべてが、俺にとっては初めての経験であり、同時に恥ずかしさを増幅させる要因となっていた。
式が終わり、配属先が発表された。俺は営業部に配属されることになった。
上司からは、「第一印象が大事だから、身だしなみには気をつけるように」と言われる。
しかし、俺のスーツはレディース仕様。ジャケットのシルエットやスカートの丈など、明らかに女性用であることがわかる。上司は少し驚いた様子だったが、「まぁ、個性的でいいんじゃないか」と笑っていた。
それどころか、
「お客様に顔と名前を覚えて貰う事も、大切な仕事の一つなんだ。君は明日からも女物のスーツを着てきなさい。すぐに覚えて貰えるぞ!」

次の日から、俺はレディーススーツでの営業活動を始めることになった。
最初は恥ずかしさでいっぱいだったが、次第に慣れていく自分がいた。スーツのシルエットに合わせて、姿勢や歩き方も自然と女性らしくなっていく。
お客様からも、「清潔感があっていいですね」と好評だった。しかし、内心では常に羞恥心と戦っていた。
ある日、取引先の女性社員とエレベーターで二人きりになった。彼女は俺のスーツを見て、
「そのスーツ、素敵ですね。どこのブランドですか?」
と尋ねてきた。俺は咄嗟に答えられず、顔を赤らめてしまった。
彼女は微笑みながら、
「私も似たようなのが欲しくて…。今度、一緒に買い物付き合って下さい!」
と誘ってきた。俺は戸惑いながらも、「はい、ぜひ」と答えてしまった。
その夜、帰宅して鏡の前に立つ。スーツを脱ぎ、ブラジャーとショーツ姿になると、改めて自分の変化に気づく。肌はすべすべで、体のラインも以前よりも女性らしくなっている気がする。
髪からはシャンプーの甘い香りが漂い、指先にはネイルの光沢がある。俺は自分の姿に驚きながらも、どこか快感を覚えていた。
少し女性の恰好を意識しただけ、連鎖的に全体を女性物として揃える様になっていた。
「このまま、女性として生きていくのも悪くないかもしれない…」
そんな思いが頭をよぎる。しかし、
同時に「いや、俺は男だ。」と自分を戒める。その葛藤が、俺の中で渦巻いていた。
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