彼と共有する秘密の趣味

着せたい服……?

俺は男性として恵まれた人生だ。顔が整っていて、高身長で、女性にもそこそこモテてきた。
しかし、そんなのはどうでもいい。俺には誰にも言えない秘密があるのだ。

それは女装に興味があるってこと。

子どものころ、親の目を盗んでは姉貴の制服や下着をこっそり試着した。あのとき感じたドキドキと高揚感は、今でも鮮明に覚えている。しかし、俺は背が高くて肩幅も広い。どんなに可愛い服を着ても鏡に映るのは、ただの男の滑稽な姿だった。それが嫌で、悔しくて、いくら女装をしても物足りなさを感じていた。大学に入ってからも、その気持ちは胸の奥にくすぶり続けていた。

そんなある日、ふと思いついた。自分が着るんじゃなくて――誰かに着せればいいんじゃないかって。

目を付けたのは、同じサークルの友達だ。彼は小柄で華奢で、どこか儚げな雰囲気がある。俺から見れば「こんなにも女装が似合いそうな男、他にいるのか?」ってくらい完璧だった。だから俺は決めた。彼に女装をさせようと。

最初は、どう持ちかけるか悩んだ。まさか「俺、女装趣味あるからお前も着てみてくれ」なんて言えるわけがない。そこで俺は策略を練ることにした。

ある日、俺は彼を家飲みに誘った。それ自体はたまに行っており、なにも怪しい事はない。
部屋でお酒を飲み始めてしばらく、アルコールが入ると彼との会話も弾んできた。

「そういえばさ、この前うちに来た女の子が忘れ物をしていったんだよねー」
俺は自然な流れを装い、部屋の隅に置いてあった紙袋を指さした。袋の中には、俺がこの日のために用意した淡いピンクのワンピースが入っている。

袋からそっと取り出して、ワンピースを広げてみせる。ふわりと広がるスカート部分のレースが、暖色の照明に柔らかく輝いていた。

「これだからモテる男は羨ましいよ!…へえ、ワンピース?」

彼は怪訝そうな顔をしながらも、興味深そうに近づいてきた。

「そうそう。俺、女の子の服装だと可愛い系の服が好きなんだよねー」

「ふーん……。そうなんだ」

軽く笑って流そうとする彼に、俺は一歩踏み込んだ。

「お前小柄だし、サイズ合いそうだよね?一回着てみてよ!」

酔いに任せて、俺はとうとう本音を口にしてしまった。

「は?」

彼は一瞬驚いた顔をしたけど、すぐに笑いながら肩をすくめた。

「何言ってんだよ、お前酔ってんじゃないの?」

「いやいや、マジで。ちょっと試してみてよ」

俺はワンピースを彼に押し付けるように差し出した。

「いや、俺が着ても気持ち悪いだけだって……」

そう言いつつも、彼の手はワンピースに触れていた。酔いの勢いもあったのか、彼は「一度だけだぞ」と言って、それを持って隣の部屋に消えていった。


彼の心中は……?

俺の心臓は、期待と緊張でドクドクと鳴っていた。まさかこんなにうまくいくとは思わなかった。

数分後、扉がそっと開く。

そこに立っていたのは、俺が想像していた以上に「可愛らしい」彼の姿だった。淡いピンクのワンピースは彼の華奢な体にぴったり合い、スカートの裾が揺れるたびに柔らかく光を反射する。まるで物語の中の登場人物のようだった。

「……似合ってる」

俺は喉が渇くのを感じながら、ようやくその言葉を絞り出した。彼は恥ずかしそうに視線を逸らしながらも、照れ笑いを浮かべる。

「そうかなぁ…」

そう呟きながら、彼は鏡の前に立ち、ゆっくりと自分の姿を確かめるように動いた。その仕草が妙に色っぽく見えて、俺の胸は高鳴る。

「……やっぱり、俺帰るわ」

彼が突然そう言ったのは、ワンピース姿のまま鏡をじっと見つめた後だった。

「いや、なんか……ちょっと酔いすぎたかも。」

「え?」

さっきまで冗談めかして「変じゃない?」なんて言ってたのに、急に顔を曇らせて、裾をぎゅっと握りしめる。

言葉とは裏腹に、彼の指先は震えていた。

「そんな急にどうしたんだ?」

俺は笑って流そうとしたが、彼の様子が妙に気になった。頬はまだ赤いし、目も少し潤んでる。けど、酒のせいだけじゃないような気がした。

「ごめん、ちょっとね……」

そう言うと彼は元の服に着替え、そそくさと帰っていった。

―――翌日、俺はいつものようにサークルへ行った。

けれど、彼の様子はどこかおかしかった。俺と目が合うと、すぐに逸らしてしまう。

「昨日は楽しかったな。お前の新しい一面も見れたし」

俺は冗談めかして言ったが、彼の反応は微妙だった。

「あー……まぁ、酔ってたからな…。もう着る事も無いしな」

「そうか?似合ってたぞ」

そう言うと、彼の耳がほんのり赤く染まった。

「バカじゃねぇの」

それだけ言って、彼はそっぽを向いた。でも、どこか嬉しそうに見えたのは気のせいだろうか。

―――そして、数日経ったある日。

「……なあ、お前、まだあのワンピース持ってる?」

唐突にそう聞かれた。

俺の胸が、一瞬にして高鳴る。

「なんで?」

「……いや、ちょっと気になって。」

彼は視線をそらしながら、カフェのストローをぐるぐる回している。

「また着てみたいのか?」

俺がわざとからかうように聞くと、彼はムッとした顔で俺を睨んだ。

「いや……でも…もし、あれば……」

言葉を濁しながら、恥ずかしそうに唇を噛む。

俺はニヤリと笑って、そっと言った。

「あるよ。今から、うち来る?」

彼は少しだけ迷った後、静かに頷いた。

俺の胸は、妙な高揚感でいっぱいになっていた。


招かれざる……?

「ねえ、それってさ、女の子の服でしょ?」

唐突にそう言われて、俺は一瞬で血の気が引いた。

言葉の主は、サークルの女友達。俺と彼が二人でよくつるんでいるのを知っている、ちょっとお節介なタイプのやつだ。俺たちがファミレスで話しているところに、ひょっこり現れた彼女は、テーブルの上に置いていたスマホの画面を覗き込み、にやりと笑った。

そこには俺がこの間、彼に着せてたワンピースの画像が表示されていた。今からまた彼にこれを着て貰う話になっていたのに…。

「な、なんでもないって」

俺が慌てて画面を消すと、彼女はますます面白そうに俺を見た。

「ふーん……。それで、誰が着るの?」

俺が誤魔化すよりも早く、彼女の視線は彼へと移る。彼は気まずそうに視線を泳がせ、俺に助けを求めるような顔をしていた。

「別にそんなんじゃないよ」

俺は適当にごまかそうとしたが、彼女は鋭かった。

「ねえ、もしかして……」

彼女の視線が、俺と彼の間を行き来する。

「……あんた、女装するの?」

矛先が俺に向いた瞬間、俺は思わず「違う!」と否定した。

「じゃあ……」

彼女の視線が、じわりと彼に向けられる。

「……着るの?」

彼は一瞬固まった後、小さく息を吐いた。

「……うん、まぁ……」

その言葉を聞いた瞬間、俺の心臓が跳ねた。俺の知らないところで、彼の中に何か変化が生まれていたのかもしれない。

すると、彼女は思いきり手を叩いた。

「やっぱり!ねえ、それならさ、私が手伝ってあげようか?」

「……は?」

俺と彼の声が重なる。

「だって、どうせやるなら完璧にやったほうがいいじゃん?」

彼女は満面の笑みで言う。

「メイクも服も、私に任せて!可愛くしてあげるよ!」

彼は困惑していたが、俺は心の中でガッツポーズを決めていた。

このまま、もっと深く……彼を可愛くしてやれる――。

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