上京したばかりの俺と新宿のざわめき
人混みでザワザワとした音が耳にまとわりつく。俺は新宿駅の東口を出て、何をするでもなくフラフラと歩いていた。
上京して初めての休日。せっかく東京にいるのに、行きたい場所なんて思いつかない。地方の大学生だった頃は、テレビでしか見たことない憧れの街だったのに。
「ねえ、ちょっとそこのお兄さん!」
不意に、後ろから声を掛けられた。振り返ると、まるで作り物の様な美しくも妖しい女性が立っていた。アイラインが鋭くて、整った唇が艶っぽく光っている。
「メンズメイクのモデル、やってくれませんか?もちろん無料だよ」
都会で知らない人に声を掛けられ、頭が真っ白になる。
「いや…俺、別に……」
と曖昧に答える俺に、彼女は耳元で囁いた。
「垢抜けたいでしょ?今のままじゃ、東京で埋もれちゃうよ」
グサリと刺さった。確かに俺は田舎くささを消したいと思ってた。
気づけば、「…少しだけなら」と頷いていた。
雑居ビルの3階、彼女がオーナーをするという撮影スタジオの控室に案内される。白いライトが肌を無防備に照らし、緊張で心臓がドクドクと鳴る。
柔らかい甘い匂い――今まで嗅いだことのない、化粧品のパウダリーな匂いが漂う。
「メイクが完成した時の表情を撮りたいから、鏡は布で覆っておくからね。じゃあここに座って、目閉じてね」
椅子に座ると、背中をやさしく押され、ふわりと髪に触れる指先の温度が伝わった。
シュッ、シュッ…。ひんやりした下地スプレーが肌を濡らし、手のひらで優しく叩き込まれる。俺の顔が他人のものに塗り替えられていく感覚。
「あっ…冷たい…」
「大丈夫、これから垢抜けていくから」
その声に背中がゾクリとした。
ブラシが頬をなぞる。ふわふわした毛先が気持ちよくて、同時にくすぐったい。
眉毛を整える時の「チチッ」という毛抜きの音がやたら耳に刺さる。アイラインを引かれると、まぶたがピンと張って息が止まる。
「撮影映えする様に、すこし派手めな❝メンズメイク❞にしていくからね。目、もうちょっと上見て」
「は、はい……」
ピタリと貼られるつけまつげ。フサフサが視界の端で揺れて、まるで自分じゃない瞬き。
頬には薄いピンクのチーク。唇には、艶っぽいグロスを重ねられる。指先で少し伸ばされるたび、妙にドキドキする。
「はい、カラコン入れるよ。ちょっと見上げて」
プニッと柔らかいレンズが目に触れ、視界がぱっとクリアに広がった。自分じゃない誰かが鏡の中から見つめ返してきた。
「うん、女の子みたいで可愛い」
「……えっ!女の子ってどういう意味……!?」
「そのままだよ。メンズメイクで女の子に変身したんだよ」
「ちょ、ちょっと待って下さい…!」
思わず声が裏返った。顔を触ると、つけまがフサフサと震える感覚が指先に伝わる。唇はグロスでぬるぬるして、カラコン越しの視界はやたら鮮やかだ。これ、明らかに“女の子”じゃないか。
「メンズメイクって言ったじゃないですか!これ…これ、完全に女の子のメイクじゃないですか!」
俺が必死に抗議すると、彼女はクスクス笑い、唇の端を上げた。
「大丈夫、大丈夫。女の子っぽくなるだけで、撮影映えするからさ。ほら、かわいいでしょ?」
かわいいって…何だよその言葉。心臓が「ドクン」と大きく跳ねて、息が詰まる。
「いや、俺…こんなの……」
「今は中途半端だから変に思えるだけだよ!。服も髪も変えれば、違和感も無くなるよ!はい、これ着て!」
差し出されたのは、黒の地雷系ワンピースだった。胸元には繊細なレースがふんだんにあしらわれ、シルクのように滑らかな生地が指先をすり抜けるたび、ゾクリとするほど冷たく艶やかだ。光の角度でほんのり紫がかって見えるその黒は、どこか魔法めいていた。
「これ、俺が着るんですか…?」
「メイクは服装も含めて、トータルでまとめなきゃ。これじゃチグハグで田舎者に見られちゃうよ」
悪戯っぽく微笑むその顔に強引に押され、俺は観念して試着室へ。服を脱ぐと、ひんやりしたワンピースの内側が裸の肌に触れ、思わず「うわっ」と小さく声が出る。サラリとした感触が、肌の産毛を撫でるみたいにぞくぞくする。
袖を通し、背中のジッパーを上げられると、腰回りがギュッと締まり、まるでウエストが細くなったような錯覚に陥る。肩からふわりと広がるスカートが、脚のラインを隠すのに、逆に“女の子らしい形”を強調していた。ふわっと動くたび、足首に軽く裾が触れて、「あれ…俺、女の子みたいじゃないか」と混乱する。
「ほら、髪もこれで」
そう言って被せられたウィッグは、驚くほどリアルだった。黒髪にピンクの差し色が入り、まるで本物の髪のように柔らかい。首筋を撫でるたび、サラサラと滑る感触に鳥肌が立つ。
「ちょっと目を閉じて、前髪整えるね」
細いコームが額をなぞり、チョンと前髪が指先で払われると、視界がふわりと変わる。指で髪を耳にかける仕草まで、無意識に女子っぽくなっていた。
「あとはヘッドドレスとリボンもつけて……完成。ね、すごいでしょ?」
鏡を覗いた瞬間、息が止まった。そこにいたのは俺じゃない。ぷっくりした艶のある唇、つけまの影がつくる大きな瞳、うっすら赤く染まった頬――雑誌の地雷系モデルのような女の子が、鏡越しに恥ずかしそうに目を逸らしていた。
「じゃ、せっかくだし街に行こ」
「え、こんな格好で…?」
「うん、大丈夫。誰も“男”だって気づかないよ。むしろ可愛いって思われるはず」
頭が真っ白になった。街に…?この格好で?でも、心臓が不思議とワクワクしているのが自分でもわかる。
――扉が「ガチャ」と開いた瞬間、外の喧騒が押し寄せた。車のクラクション、通行人の話し声、ガヤガヤとした新宿の雑踏。俺の足は一歩も動かない。
(無理だろ、こんなの見られたら絶対変な目で…)
でも、ウィッグの髪が首筋をかすめ、妙に背中が熱くなる。レースの袖口が手首を包み、風がふわっと裾を撫でる感覚に、全身が敏感になっていく。
羞恥、恐怖――なのに、なぜか心の奥で「もっと見られてみたい」と思う自分がいた。
ああ、俺、これからどうなっちゃうんだろう――。

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