性別が変わる病気

徐々に変わりゆく身体

その朝、目が覚めた瞬間から違和感があった。指先が妙に滑らかで、手のひらに力が入らない。まるで誰かの手を借りているようだった。

「疲れてるのかな……?」

そう言い聞かせ鏡を見る。だが映る自分の顔は、何かが少し違って見えた。頬がわずかに丸く、眉骨が滑らかになっている様な気がする。

仕事のためにスーツを着ようとしたが、シャツの首元が緩く、ジャケットの肩幅がやけに余る。ネクタイを締める手元が震え、まるで自分の体が自分のものではなくなったような感覚に襲われた。

翌日には胸に張りを感じ、足元も細くなっているのに気付いた。スラックスの裾が揺れ、妙に軽やかに見える。

3日目には、声が高くなり始めた。電話越しの同僚に「今日の声、なんだか高くない?」と笑われ、血の気が引いた。

恥ずかしさと不安を抱えつつも、変化は止まらなかった。

5日目、肌が絹のように白く輝き、髪が肩をかすめた瞬間、恐怖とともに心の奥底に奇妙な期待が芽生えるのを感じた。

7日目の朝、鏡の中に映る自分は完全に女性だった。艶やかな髪に、白く滑らかな肌、そして少し上気した頬。パジャマの生地を引っ張る大きな胸に、目を逸らしてしまう。

そのとき、スマートフォンの通知音が鳴った。

【あなたは性別変異症に感染しています。詳細を確認してください】

画面には、見知らぬアプリのアイコンが輝いている。

――性別変異症。聞いた事のない病名と見た事のないアプリの通知。

確認の為、通知をタップしようとする指先は、震えていた。


初めての感覚

震える指先で通知をタップすると、画面が一瞬暗くなり、見慣れないアプリが立ち上がった。シンプルで冷たいデザインのインターフェースに、まず目に飛び込んできたのは「政府公認変異管理局」という文字。そして、その下に続くメッセージ。

【あなたは突発性性別変異症に感染しており、性別が変更されます。新しいマイナンバーが発行されました】

スクロールすると、そこには英数字の羅列と、その隣に、まったく見覚えのない女性の名前が記されていた。どこか柔らかく響くその名前が、まるで僕の新しい現実を告げるかのように、画面上で静かに輝いていた。

「……何?」

声に出してみたが、高く澄んだその音は、まるで他人のものだ。胸が締め付けられるような戸惑いを感じながら、僕はもう一度鏡の前に立った。パジャマが肩からわずかにずれ、露わになった鎖骨のラインがあまりにも華奢で、白い肌が、天井の照明の光を跳ね返す。腰まで伸びた髪がさらりと揺れ、鏡の中の女性が僕をじっと見つめ返している。

目を閉じて深呼吸し、もう一度見つめ直す。胸の膨らみは柔らかく、わずかに上気した頬は羞恥と混乱で熱を帯びていた。指先でそっと首筋をなぞると、ゾクッとするような感覚が背筋を走り、は思わず息を呑んだ。この体は確かに美しい。美しすぎて、目を逸らすことができないほどに。

そして、その瞬間だった。自分の裸体を眺めているうちに、胸の奥で何かが疼き始めた。最初は戸惑いだったその感覚は、すぐに別のものへと変わっていく。熱い。息が浅くなり、心臓が早鐘を打つ。鏡に映る自分の姿が、まるで誘うようにこちらを見つめている気がした。

「……だめだ」

そう呟きながらも、手は勝手に動いていた。パジャマのボタンを外し、冷たい空気が肌に触れる。その瞬間、鳥肌が立つほどの感覚が全身を走り、僕は小さく息を吐いた。鏡の中の自分が、羞恥と好奇心に揺れる目でこちらを見ている。指先でそっと首筋をなぞると、ゾクッとするような痺れが背筋を駆け上がり、思わず唇が震えた。

次に、恐る恐る胸の膨らみに手を伸ばした。柔らかいその感触に触れた瞬間、電流のような快感が体を貫き、「んっ……」と小さな声が漏れる。男性だった頃には知り得なかった、柔らかくて熱い感覚。指先で軽く押してみると、胸がわずかに揺れ、その動きに連動するように全身が熱を帯びていく。もう片方の手で反対側の胸に触れると、両方の刺激が重なり合い、頭の中がぼうっと霞んだ。

息が乱れ、心臓の鼓動が耳に響く。僕は無意識に唇を噛み、目を閉じてその感覚に身を委ねた。だが、それだけでは収まらない。疼きはさらに下へと広がり、躊躇いながらも手を腹部に滑らせた。滑らかな肌を指が通り過ぎ、未知の領域に近づくにつれ、緊張と期待が混じり合った震えが止まらなくなる。

そして、ついにそこに触れた。温かく、湿り気を帯びたその部分に指が触れた瞬間、鋭い快感が全身を突き抜け、「あっ……!」と声が飛び出した。自分で出したとは思えないほど甘く高いその音に、羞恥が一瞬頭をよぎる。だが、すぐにその感情は快楽の波に飲み込まれた。指を軽く動かすたび、頭が真っ白になり、膝がガクガクと震え出す。男性だった頃の感覚とはまるで違う。鋭いのに深く、どこまでも広がっていくこの快感は、体の奥から湧き上がって僕を支配した。

もう片方の手は胸に戻り、両方の刺激が交錯する。指の動きが自然と速くなり、息が短く途切れ途切れになる。鏡に映る自分を見ると、髪が乱れ、頬が紅潮し、唇が半開きになっているその姿が、さらに熱を煽った。自分の体がこんなにも敏感で、こんなにも美しいなんて――その事実に頭がクラクラする。

「あ……だめ、っ……」

呟きながらも、動きは止まらない。快感の波がどんどん高まり、ついに限界が来た。全身が硬直し、頭の中が真っ白に弾ける。声にならない声を上げながら、僕は膝をつき、鏡に手をついて体を支えた。初めての女性としての絶頂は、男性だった頃のそれとは比べものにならないほど鮮烈で、体の芯まで震わせるものだった。余韻に浸りながら荒い息をつくと、汗に濡れた髪が額に張り付き、鏡の中の”私”がこちらを見つめていた。

僕はこの新しい体で、完全に未知の快楽に溺れていた。そして、すべてが終わったとき、鏡を見上げた。そこに映るのは、汗と熱に濡れた、紅潮した女性の姿。

――僕は、これからどうなるのだろう……。

FANBOXでは週3回、新作をお届けしています

イラスト挿絵付きの連載作品を、週3回のペースで更新中です。
皆さまのご支援が大きな励みとなり、創作を続ける力になります。
ぜひFANBOXでの応援をよろしくお願いいたします!

FANBOX

Pixivでも作品を公開しています

文字コラ画像や、FANBOX投稿作品の冒頭部分を公開中です。

Pixiv

タイトルとURLをコピーしました