気づけば、周りの友人たちはみんな結婚していた。
週末の飲み会で、まわりの奴らの薬指に、さりげなく光るリング。
笑いながら「お前はいつ結婚するんだよ」と肩を叩かれるたび、
俺は無理して笑っていた。
正直、焦っていた。
身長165cm、体重75kg。中年太りの兆しが出はじめて、
最近はシャンプーのたびに手のひらに抜け毛が張りつく。
鏡の前に立つたび、ため息が漏れる。
「……誰がこんな俺と結婚してくれるんだよ……」
そんな時だった。
スマホの広告に突然出てきた一枚のバナー。
“見た目を変えて、結婚を”
婚活支援型美容サロンというエステの広告だった。
モデルの笑顔の下には、“半年で人生を変えるプログラム”と書かれていた。
半年かけて見た目を変化させて、自分の自信を取り戻し、そのまま婚活も支援してくれると言う俺にピッタリのエステサロンだった。
変わるきっかけが欲しかった俺は、迷わずカウンセリングの予約をおこなった。
サロンの扉を開けた瞬間、ふわりと甘い香りが鼻をくすぐった。
白とピンクを基調にした内装。足音すら吸い込まれそうなカーペット。
まるで別世界だった。
「ご来店ありがとうございます。」
白衣の女性スタッフが、にこりと微笑んだ。
その笑顔を見ただけで、心の奥がふっとほどけた気がした。
案内されたカウンセリングルームには、静かな音楽が流れていた。
「リラックスして、ありのままをお話しくださいね」
言葉と同時に、肩に触れられる。
その手が不思議と温かくて、体の力が抜けていく。
「あなたが理想とする“姿”を、少しだけ思い浮かべてください」
……理想。
そう言われて、浮かんでくるのは漠然とした“誰か”の姿。
綺麗で、自信があって、周りに愛されている人。
でも、それは――男じゃなく、女だった。
「きっとあなたは今、女性を想像しているはずです。そうです。あなたは元々、女の子になりたかったんです」
その瞬間、ふわっと意識が遠のいていった。
彼女の声が、心の奥で囁くように響く。
「もう大丈夫。あなたは、なりたい自分になっていいのよ」
……気が付いた時は、手術台のようなベッドの上だった。
腹に冷たいジェルが塗られ管を入れられ、「ジュル、ジュル」と吸引音が響く。
脂肪が吸い出されるたび、腹が軽くなっていく。
でも同時に、胸のあたりがじんわりと熱を持ちはじめた。
「お腹の脂肪を胸に注入していますよ」
そう言われた瞬間、
胸の奥で「ぐにゅっ」と何かが動いた。
体の奥から膨らむような感覚。
「う、うそだろ……これが俺の体……」
なのに、触れるたびに、ぞくぞくと甘い電流が走った。
その後、上腕に注射の針が刺さり、女性ホルモンが流し込まれる。
「じんわり」と体が熱くなり、頬が紅潮してくる。
呼吸が浅く、甘くなって、
自分の中で何かが溶け崩れていくようだった。
半年後。
鏡の前に立った私は、理想の自分になれた。
バスト90、ウエスト58、ヒップ90。
絵に描いたようなプロポーションの“女性”が、そこにいた。

「……これが、私……」
声は柔らかく高く、吐息まじりに響いた。
胸元に手を当てると、「ぷにっ」と弾力が指を押し返す。
腰をひねると、くびれたラインがくっきり浮かぶ。
太ももをなぞると、絹みたいに滑らかで、
指先から熱がこみ上げる。
髪をかき上げた瞬間、花のような香りがふわりと広がった。
それだけで、胸の奥がぎゅっと鳴る。
「さあ、婚活を始めましょう」
背後から、あのカウンセラーの声がした。
「これであなたは理想のお嫁さんになれるわ」
“お嫁さん”――その言葉に、
一瞬、頭の奥がカチリと音を立てたような気がした。
なにか、忘れている。
なにか、大事なことを。
「……え、私……は……元々男、だったよね?」
呟いた瞬間、胸の奥で“ドクン”と心臓が跳ねた。
けれど、唇から零れた声は、もう女のものだった。
「……もう、戻れませんよ」
頭の奥で、カウンセラーの声がやさしく響いた。
――何かが、完全に変わってしまった。
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