昼下がりの教室。窓際から差し込む陽射しが、机の上で淡く揺れていた。
クラスの中心には、俺、『堀米 怜』がいる 。
話題も視線も全部この手の中――そう思えるくらい、クラスは今日も俺を軸に回っていた。
「あいつ、また調子のってんな」
誰かが小さく呟いた声が耳に入る。
けれど、そんなの気にしない。格下の人間がなにか言った所で俺には何も響かない。
だが――その日の放課後……
「ちょっと話があるんだ」
「あ?なに?」
声をかけてきたのは、地味な男子グループ。普段なら絶対に絡まない連中だった。
「ちょっと大切な事だから、ここではちょっと……。申し訳ないんだけれど、付いて来てくれるかな」
――理科準備室。静まり返った空間に、薄暗い蛍光灯の光。
「で?何の用だよ」
「ちょっとこの映像、見てくれるかな?」
ポケットから取り出したスマホの画面に、渦を巻くような光がゆっくりと点滅していた。
チカ、チカ、チカ……規則正しく瞬く光が、瞳の奥を掴んで離さない。
まぶしさが滲んで、教室の輪郭がゆらりと揺れる。
(なんだ……これ……?)
視界がぼやけ、頭の奥がじん、と痺れた。
「堀米君……君は自分が女の子だと思い込むんだ」
耳元で囁かれる声が遠くで響く。
「明日、女子として登校して来るんだ。そしてクラスの前で自分から、❝女の子になる❞と宣言して」
こいつ何を言ってるんだ。そんなのやるわけねぇだろ……そう思っていたのに――
翌朝。
制服のスカートが太ももをかすめた瞬間、ひやりとした感触が走り、肌がびくりと震えた。
(なんで……なんで俺、スカートなんか穿いてるんだ!?)
胸元には小さなリボン、ブラウスの布地が肌にぴたりと吸い付いて、背筋がゾワゾワした。
鏡の前でウィッグを直す自分の姿に、吐き気がした。
(体が思う様に動かない……。違う、やめろ……俺は……男だ!)
だけど足が勝手に動いた。
教室の扉を開けた瞬間、空気が凍りつく。
ガヤガヤ……という雑談がぴたりと止んだ。
そして、俺の口が勝手に――。
「私、今日から女の子になりますっ!」

――は?
教室がざわつく中、俺の声は続いた。
「だから、今日から女子の制服で登校したの!お化粧もしてるし、髪が伸びるまではウィッグだけど……今まで通り、仲良くしてね!」
(やめろ!何を言ってるんだ!)
否定する心とは裏腹に、とびきりの笑顔まで作っていた。
教室の空気が一変した。
女子たちは引いた目で俺を見て、ひそひそと囁く。
「うわ、なにあれ……」
「マジでやば……」
「堀米君、結構いい感じだと思ってたのに……さすがにあれは無いわ……」
男子の数人――昨日の“連中”は、にやりと口角を上げた。
「似合ってるよ。可愛いね、堀米君……いや、怜ちゃん」
「もっともっと女の子らしくね」
(やめろ……ふざけんな……!)
頬が熱い。耳まで真っ赤になってるのがわかる。
「うん!みんなもこれからは“怜ちゃん”って呼んでね!」
(ちがう!俺は“男”だ――!)
叫びたいのに、口が動かない。笑顔を崩せない。
俺の羞恥とメス堕ちの日々は今日から始まった……。
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